MPJロングインタビュー

日本の男子は必ず合体、変形ロボットの洗礼を受ける。最初に見たロボットアニメはゲッター? コンバトラー? マクロス? いずれ男の子が男になり、中年になっても、いまだロボットは心を熱くする。そして、その中の大きな要素である「完全変形」にメッセージを込めた作品が存在する。

その名は「h010101」。

HENGEの山路智生氏が制作された“変形するオブジェ”だ。

2010年7月、大阪で開催された現代美術展「ART OSAKA 2010」にも出品したアート作品である「h010101」は、また、ワンフェス2010〔夏〕にも出品された完全変形トイとしての一面も持ち合わせている。複雑な変形を、一切の差換えなしで全く別の形状に変化させるそれは、デジタルモデリングを駆使して制作されたのだという。今回のMPJロングインタビューは、いったいどのよう経緯で、どのような手法でこの作品が生まれたのかを伺ってみようと思う。

まず読者の皆さんにお断りしなければならないのは、このインタビューはメールを通してなされたものだということだ。会話をする時の微妙なニュアンスや場の空気のようなものは読み取れないかと思う。本来であればお会いしてお話を伺うのが筋であるとは思うのだが、様々な事情でこのような掲載の形をとることとなった。読者の皆様にお詫びすると共に、この取材に快く応じてくださった山路氏に、厚く御礼を申し上げたい。そのかわりといってはなんだが、この「h010101」にこめられた氏の思い、その製作過程など、余すところ無く紹介できればと思っている。どうかご一読いただきたい。

私が「h010101」を始めて目にしたのは、某サイトで特集記事として取り上げられているページであった。その不思議なフォルムと完全変形というコンセプトに目を奪われた。その後ワンフェス会場にて実物を目にし、このインタビューが実現する運びとなったのだが、意外なことに、山路氏はプライベートでいわゆる「模型」を作ることはほとんどないのだという。

山路氏:実のところ模型はあまり頻繁に作りません。ここ数年は1年にひとつ程度の頻度で、ガンダムやマクロスなどの映像作品に登場する変形ロボットのプラモデル(スナップフィット)を組み立てる程度です。これは変形機構や設計手法を調べるのが目的ですので、塗装や改造はしません。ガレージキットは一度も作ったことがありません。h010101制作ではレジンキャスティング法などガレージキット制作で一般的な技法を用いましたが、これらはインターネットで調べて独学で習得しました。

山路氏の作品の造形方法は独特で、3D-CADによる設計から卓上試作機による立体造形を経て、シリコン型の制作、レジンキャストによる成型、組立てを経て完成となる。実際の製作過程はHENGEのページ( http://www.henge-web.jp/about/about.html#making_process )に詳しく掲載されているのでそちらをご覧いただくとして、使用されているシステムは至って普通のスペックだ。

山路氏:下記のような機械、ソフトウェアを使用しています。3D-CAD『Rhinoceros(ライノセラス)』や卓上試作機『MODELA(モデラ)』などの操作方法は、インターネットで調べて独学で習得しました。

    3D-CADによる造形設計
    使用機器: Dell Inspiron 530(CPUクロック数: 3.0 GHz、RAMメモリ: 4.0 GB、HDD: 500 GB、OS:Windows XP Pro)
    ソフトウェア:3D-CADソフト:Rhinoceros Ver. 4.0(NURBSサーフェスモデラー)
    卓上試作機: MODELA MDX-20
    MODELA駆動用ラップトップPC:Gateway Solo 5150 LS/CPUクロック数: 266 MHz、RAMメモリ: 128 MB、HDD: 30 GB、OS: Windows 98 SE
いかにデジタル造形とはいえ、あのような超絶変形をする立体物が出来上がるとはにわかに信じがたい。おそらくデジタル造形ならではの独自のセンスや手法が必要なのだろうと思うのはマニュアル造形派の私だからかもしれない。しかし「造形物の制作」という過程において、非常に近い部分が存在する。

山路氏:パソコン作業を始める前にも途中にも、私は手描きのラフスケッチや機構図を頻繁に描きます。頭の中におぼろげな作品コンセプトだけがある段階で、作品の外観形状のバランスを模索したり、設計中に発生しそうな問題点をパソコン作業開始前に予測したり、あるいはパソコン作業中に発生してしまった問題点を解決するアイデアを見つけたりするのに、やはり手描きスケッチは欠かせません。
特に変形機構の検討には数多くのスケッチを手描きしました。h010101は全身が変形機構の塊ですが、平均すると一つの部位につき10個ほど変形機構のアイデアスケッチを描き、それらをひとつひとつ3D-CAD上でモデリングして動かして比較検討しました。実際に採用するアイデアは1つだけですので、残りのアイデアは全てボツになります。h010101の制作を通じて設計の進め方のコツを掴んだので、今後はより効率的に設計作業を進められると思います。



   非常に複雑な変形機構を持ちながら、破綻なく完全変形する。

製作中は試行錯誤するのもまた同様。

山路氏:h010101は3つの試作を経て、4つ目を完成形としました。特に変形機構が設計通りに機能するか否かについては、試作品を作成して確認しました。その結果、変形機構が複雑過ぎて数箇所が設計通りに機能しないことが判明したため、変形機構を単純化し、パーツ数を減らしました。当初160近くあったパーツ数は、最終的に134になりました。

そういった部分を考えるとき、山路氏のデジタルモデリングは、あくまでも「単なる制作手法の選択」の問題であり、ただ単に「造形という過程」の簡略化を狙ったものでないことが伺える。
では一体どのような経緯で「h010101」が生まれることになったのであろうか。
山路氏は子供の頃から変形・合体ロボットトイが大好きで、友人宅で変形トイに触れてはメカニズムを研究・丸暗記し、自宅に戻ると厚紙とセロテープでメカニズムを再現、変形トイを自作していたという。以下は「h010101」のライナーノーツからの抜粋だが、非常に興味深いので掲載させていただく。

山路氏:当時も現在も、市販の変形トイにはキャラクター性が強い外観のものが多いですが、私はそれらの内面に次のような哲学性やアート性を感じます。
 ・一つのシルエットから全く異なる別のシルエットへ大きく変化する意外性、多面性
 ・意外性のある変形プロセス自体にアート性を感じる。
 ・複雑なメカニズムの創出過程における、開発チームの深い思い入れ、苦労、困難、問題解決プロセス自体にドラマ性、アート性を感じる。
現代美術作家のフィギュア作品がアート作品として取り扱われるなど、近年ではホビーとアートの境界が次第にあいまいになって来ていると感じます。このような流れのなか、「変形トイとアートの融合」という選択肢があっても良いのではないか、キャラクター性を強く打ち出す代わりに上のような哲学性やアート性をより強調した作品があっても良いのではないかと思いたち、オリジナルデザイン作品h010101の制作を始めました。私の作品には「ホビー商品」という側面のほかに、「インテリアオブジェ」や「アート作品」という側面も内在すると考えています。

 
筆者には山路氏のこういったアプローチこそが「アート」と「ホビー」の境界線を越えていくのだという気がしてならない。いや、むしろその境界線を意識しない所に山路氏の到達点があるのかもしれない。

山路氏:私の場合、ものづくりのモチベーションは『メッセージ』というより『問いかけ』です。作家ごとに様々な表現方法があると思いますが、私の場合は立体作品の形を採るのが妥当と考えています。私は幼少の頃から変形・合体ロボットトイが好きだったのですが、近年、下表のような問いかけについて再考した結果、変形トイを表現の媒体とすることを思い立ち、h010101の制作に取りかかりました。もしかすると改めて再考するよりもずっと以前から、おぼろげに変形トイに下のような問いかけを重ねていたのかも知れません。
    ・一見すると不変に見える事物も、時、状況、立場、視点によって見え方が大きく変化するのではないか?(多面性、多様性)
    →ひとつのシルエットから全く異なる別のシルエットへ大きく変貌するオブジェ

    外見を見ただけでは内面まで理解できないのではないか? あるいは、一部を見ただけでは全体を把握できないのではないか?
    →外見からはイメージできない変形メカニズムが内部に収められている

    ・事物の構成要素は各々独立しているわけではなく、相互に関連しあい、影響しあって事物を構成しているのではないか?
    →パーツ差し替えなしの完全変形

    ・一見すると断続的に見えても、実は連続的に変化しているのではないか? 変化の前後で全く別のものに見えるのは、その過程を見過ごしているからではないか? 変化の前後だけではなく、見過ごしがちなその過程にも重要な事実や美が潜んでいるのではないか?
     →作品を手に取った方がご自身の手で全てのパーツを動かし変形プロセスを辿って頂くことにより、変形前のシルエットから変形後のシルエットへ、作品が連続的に変化することを再認識して頂ける。また、多数あるパーツのひとつひとつが持つ機能や動作の目的を詳細に観察して頂ける。

その造形や機能が、ある種の思想を伝達する。それは立派なアートであるし、また、その機構や質感を手にとって楽しむことができるのはホビーの最も優れた特性である。それをデジタルという技法を使って表現した山路氏にとって、デジタル造形とアナログ造形とはどのような差があるものなのであろうか。

山路氏:デジタル技術が駆使された作品とそうでない作品の差異は、単純に作家の制作アプローチが異なるだけであり、それ以上でも以下でもないと考えています。制作プロセスにおいてデジタル技術を駆使したか否かが作品の評価に影響するのであれば、それは非常に憂うべき風潮ではないかと思います。
2010年7月、現代アートイベント『ART OSAKA 2010』に拙作h010101を出展して以降、アート業界の人々と交流する機会が増えたのですが、『デジタル技術が駆使された作品はアート性が低く、手作業主体で制作された作品はアート性が高い。』という会話をよく耳にします。以前、私は土木技術者として、つまりエンジニアとして長い間建設会社に勤めていたのですが、『ものづくり』と『エンジニアリング』を同義に捉え、そこにこそアート性を感じている私は、前述のような意見を聞くと大変悲しく思います。現代日本で生活している私達は、先人達の血の滲むような苦労と努力によって受け継がれてきたエンジニアリングの恩恵を受けて利便性の高い日常生活を送っています。デジタル技術はそのエンジニアリングの重要な一分野と言えます。先人達から受け継いだ高度な技術を駆使して優れた作品を創り出す。私はこの取り組み自体が素晴らしいことだと考えます。


山路氏はすでに次回作に取り掛かっておられるという。

山路氏:現在2作目に取りかかっています。h010101では『誰も見たことのないシルエット』から『誰も見たことのないシルエット』に変形することをコンセプトとしましたが、今作は『誰もが見たことのあるシルエット』から『誰もが見たことのあるシルエット』に変形することをコンセプトとしています。モチーフの選び方にHENGEならではの個性をもたせ、『コレがアレに変形?』という驚きを感じて頂ける作品に仕上げたいと考えています。制作状況はブログにて順次ご紹介して参ります。
今後しばらくはh010101の路線から離れ、そのほかの様々な路線を順番に試していきたいと考えています。
3D-CADや卓上試作機の操作方法を独学で習得するため、h010101ではできるだけデジタル技術を利用しましたが、結果として制作期間が長期にわたってしまいました。今作ではデジタル技術とアナログ技法をバランスよく使い分け、作業効率の向上と制作期間の短縮を図りたいと考えています。


    現在製作中のパーツ。非常に複雑な三次局面の作品であることがわかる。

思想を伝達するためのツールとしての変形メカ。1970年代にロボットアニメがスタートした時、いったい誰がそんなことを想像しただろう。プラモデルは子どものオモチャから大人の趣味へ、そして今、知的冒険への重要なツールへと進化した。山路智生はそのエッジで戦う、孤高のアーティストなのである。




・個展開催
【会期】 2011年3月頃を予定しております。
【会場】 乙画廊(おとがろう)
〒530-0047 大阪市北区西天満2-8-1 大江ビルヂング101
電話:06-6311-3322

乙画廊 ウェブサイトURL http://web.mac.com/oto_gallery/

 HENGEウェブサイト(日本語): http://www.henge-web.jp/
 HENGEウェブサイト(英 語): http://www.henge-web.com/
 HENGEブログ(日本語): http://hengeweb.blog57.fc2.com/
 YouTube動画: http://www.youtube.com/watch?v=k4CWoSjluTM

TEXT/ガモ川口、大津 匠


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