編集部(以下 編)「師匠、いよいよ『モデラーのための色彩学』も大詰めです!」
線香亭無暗(以下 無)「大詰めって、別にサスペンスドラマかなんかやってるわけじゃないんだからさ(笑)、もっと気楽に行こうよ」
「そうなんですけどね。なんか長い道のりを歩いてきたような気がして……」
「そんなに面倒くさかったかなぁ? まあ、聞きなれない事も多いだろうから馴染みにくいかもねぇ(笑)」
「でも、ここであきらめたら、一生食わず嫌いで終わりそうな気がするんですよ。だから最後まで付き合います」
「そんな、命取られる訳じゃないんだから(笑)。っていうか、君には最後まで付き合ってもらわないと原稿にならない」
「わかってます。もう、行きましょう。早速行きましょう!!」
「じゃぁ、『モデラーのための色彩学 その4』始めようか」


◆『彩度』の調整は必要ない?!

「前回までの話で『色相』『明度』については終わってたよね」
「はい、今回は『彩度』の調整についてって事でした」
「じゃぁ、ちょっとおさらいしておくと『彩度』とは色の3属性のうち『色の鮮やかさ』を決める要素だ」
「はい、しっかり覚えてますよぉ。今回はその彩度の調整方法を説明してくれるんですよね」
「うん。でもね、『明度』の調整がしっかりできていれば『彩度』の調整は殆んど必要ないことが多いんだ。せいぜい微調整くらいで」
「えーっ! 何でですか?」
「我々が普段作っているキャラクターモデルは、それくらい遠くに離れている状態の大きさだってことだよ。例えば20mの物体が20cmに見える距離は、最低でも目標から6km以上という事になる。印象でいうと10kmとかそれ以上になるんじゃないかな? それくらい離れていれば、相当明度も上がってる。すなわち彩度も下がってるってこと」
「何でそんなに離れてるってわかるんですか?」
「人間の視界をカメラのレンズに換算すると、ある関数で求められるんだよ。もちろん人間の視覚は人によって違うし、実際に見えているものと記憶の中にある印象は常に異なるから、目安にしかならないんだけどね。関数の説明、しようか?」
「いや、結構です。信じます」
「君、思いっきり文型だなぁ(笑)。まあ、見えたままに塗る必要もないと思うからイメージ優先でもいいんだけど、ネットの投稿サイトなんかを見てると圧倒的に彩度が高すぎて、なんだか“生っぽい”塗装をしている人が多いんだよ。『その色だと5mか10mくらいしか離れてないだろ』っていう」
「でも格好よければ『生色』の塗装でもいいんじゃないですか?」
「もちろん、それが狙いであればいいと思うけど、リアルって事を考えるとね」
「ああ、いちばん最初に言ってた『アニメを再現した模型』なのか『リアリティーを追求する』のか、みたいなことですね」
「うん。『ただかっこよければいい』で終わっちゃうと、今までの話は何だったのかって事になっちゃう(笑)。『どうやってリアルでカッコイイ塗装をするか』って話なんで。まあ、リアリティーがある模型を考えるなら、生色のロボットは圧倒的に距離感かスケール感が狂っているって事だよね。元が小さいかスケールがおかしいか。やっぱり『これは20mの物体の1/100の模型です』っていう前提があるんなら、それくらいの大きさに見せたいっていうのが模型のリアリティーの第一歩だと思うんだ。これが例えば、車なんかだと普段から実物を大気の影響を受けない状態で見てるから、1/24の模型に生色を塗っても納得できちゃうんだけど、その模型の元が10m超えた辺りからだんだん怪しくなってくる。それに、人間の視覚は遠くに行くにしたがって加速度的に物が小さく見えるっていう特性があるんだ。だから余計注意しないといけない」
「そのあたり、どれ位のスケールから遠近法を意識するっていうのはあるんですか?」
「元の大きさとスケールとの兼合いだと思うよ。例えば戦車だったら元が10m弱だから1/35ではそれほど意識しないけど、1/48だったらちょっと考えるし、1/72だとスケールエフェクトを意識して塗る。飛行機も1/72や1/144だと意識するなぁ。もう20m級のロボットで1/100とか1/144だったら完全に意識する範疇だね。まあ、元になるキャラクターにもよるけど。これが元が1.5~2m位で、1/12とか1/6、1/8なんていう場合――最近のフィギュア系の模型なんかに多いんだけど、そういう場合は明度による調整は無視して、どうやって質感を再現するかを考える事が多い。スケール感としては大スケールの自動車に近い感じかな」


◆『彩度』の調整法とは

「じゃあ、『明度』の調整ができてれば『彩度』の調整は必要ないって事ですね」
「必要ないわけじゃなくてね。それぞれの色の兼ね合いや、塗ってみたらちょっと色味が違うなんて時には彩度を微調整する。そういうときには特別な方法があるんだ」
「おっ、そういうのを待ってたんですよ。特別な方法」
「いや、それ程でもないけど、『明度』に与える影響を最低限に抑えながら『彩度』を落とすには『補色』を使うといい」
「ああっ、また出やがりましたね。補色のヤツ!」
「なんだよ(笑)。補色嫌いなの?」
「いや、混色の時に気をつけなきゃと思ってたらつい……」
「例えば、色相も明度も丁度なのに、ちょっと彩度が高い=生っぽいなぁ、ってことあるでしょ」
「はい」
「そういうときには補色をほんの少しだけ足すと、彩度が落ちて落着きのある色味になるんだ。明度が変わってもいいなら白か黒を足せばいいんだけどね。そういう時にやりがちなのが、彩度を落とそうとして白を入れて、明度が上がっちゃったんで黒を入れて、彩度が下がっちゃったんで元のカラーをいれってっていうのを繰り返して、コップ一杯くらい使えない塗料を作っちゃうパターン。これだと永遠に目的の色にたどり着かない。早々にあきらめて混色をやり直したほうがいい」
「あ……あります。コップ2杯分までがんばりましたけど……」
「そりゃぁ塗料の無駄だよ(笑)。少しだけ彩度を落としたいのなら混色のときに使った純色系のカラーを使うといい。ガッツリ彩度を落としたい時は普通のカラーでもいいけど、くれぐれも慎重にね。驚くぐらい彩度が下がるから。それから、これも裏技的な混色法だけど、完全な補色ではなくて補色から少しずれた色を混ぜると、程よく彩度が整うことがある。混ぜるのはほんの少しでいいんだけどね」
  ■マンセル色相環

「ああ、なるほど。よく原稿に出てくる『~を少々』ってそのことだったんですね。謎が解けましたよ!」
「あ、いけね。バラしちゃった(笑)」


◆いよいよ完成? 上手く配色をまとめるコツ

「ここまでくれば、いよいよ完成ですね」
「いや、まだやっとかなくちゃならないことがある」
「ええ~~」
「まあ、ここまで進んだ人は、それなりに配色って事を考えてると思うんだけど。配色を整えるのもコツがあるんだよ」
「あ、それは聞いておきたい話です」
『この塗装よくまとまってるなぁ』っていう模型を『色の3属性』的に見ると、例えば3色で構成されている場合、『2色対1色』っていう構造になってる場合場が多い。『明度の異なる2色』と、『色相と明度は異なるが彩度は近い1色』の組み合わせとかね」
「ん、ん、ん?? ちょっと待ってくださいよ」
「ああ、色のことを言葉で言うからいけないんだな。ゴメンゴメン、これ見て」

「軍用色っぽい取り合わせですね」
「ぽい、っていうかそのままだけどね。よく見るパターンの配色だよね。説明書の指定どおりに塗ると、こんな感じの配色になる。これを模型に塗装するためにアレンジしてみたのが次の図。大体20m級のメカの1/144くらいの模型に塗るつもりで調整してみた」

「なるほど、こういう感じになるんですね」
「3色とも最初の状態から同じくらい明度を上げてみた。でもこれだと今ひとつ“見せ場”がないと思わないかい?」
「うう~ん、そう言われれば……って感じですけど」
「じゃあ、これは?」

「あ、いい感じです。なんか模型に塗ったときのイメージが涌いてきますね」
「これは黄色の色相を若干赤めに振って、彩度を高めにしたもの。そこだけリアリティーの演出からちょっと離れて、見せ場を演出した配色だ。ちょっとした“外連味(ケレンミ)”、というか全体の印象を強くするための演出だね。ただ、こういうパターンの時によく見るのが、この黄色だけ未調整の“生色”を塗っちゃってるパターン。そこだけ色が浮いて見えて、“惜しい!!”って感じになる」
「なるほど。他にわかりやすい例はないんですか?」
「う~ん。じゃあ、こんなのは? ロボでしか使わないような配色」

「あ、これは“闘士”っぽい配色ですね」
「まあね(笑)。これ、青の振り方が難しい。そこで、思い切って青の色相を変えちゃう。それでもって他の色をそれに合わせる形にしたのがこれ」

「ああ、なんかイメージできます。面白いですね」
「青は難しいんだよ。元の指定を遵守するか、ある程度無視してしまうかの選択だね。これは軍用色っぽい青にしてみた。この取り合わせに、少ない面積でホワイトラインなんかが入っているとバッチリ締まる」
「なるほどぉ~」
「ついでにキャラクターモデル永遠のテーマであるトリコロールを考えてみようか。元はこんな感じだよね」

「はい」
「これをアレンジしたのが次。コア・ファイターの作例で使った配色。この見本に黄色は入ってないけど、黄色と赤の組み合わせが見せ場になると思う。今度、ガンダム本体もこの色で塗ってみようかなと思っているんだけどね」

「あ、それ見たいです。やってください」
「簡単に言うなよ(笑)。まあ、こうやって、最終的にそれぞれの色味の取り合わせを考えて、“見せ場”を演出するといいよ、って話だ。模型としての見せ場を演出するにはちょっとリアリティーから外れてる位の度胸が必要なんだよ」


◆今回で最終回。のはずが……

「さあぁ、ここまでくれば、いよいよ完成ですね」
「なに言ってんだい。塗装作業はここからじゃないか」
「あ、そうでした……」
「それにここまでの話は基本的な塗装についての話だけで、ウェザリングやウォッシング、トップコートなんていう話は全然してない。あ、デカールの話もあったな……」
「道のりは遠いデスネ……」
「まあ、それはまた追々話すとして、君のように“道のりは遠いなぁ……”って思っちゃった人達に言っておくと、この『モデラーのための色彩学』で話した事を全て実践しなきゃいけないわけじゃない。ここで話したことは、あくまでも“線香亭無暗”ってモデラーが、これまで蓄積した知識や経験に基づいて、いつもはこうしてますよってことを話しただけで、最初は“これやってみたいなぁ”とか“ここが面白そうだなぁ”って感じたことを、各自でチョイスしてやってみてもらえばいいと思うよ。真剣に記事を呼んでくれた人は、きっと何かヒントみたいなものを感じていてくれると思うから。それで、もしわからない事や、疑問なんかがあればメールで質問してくれればいい」
「そういえば質問のメールが結構きてるんでした」
「みんな塗装に対しては興味あるんだね。じゃあホントは今回で終わる予定だったけど、もう1回延長して、質問に答える回をやろうか」
「あ、それいいですね。ぜひやりましょう」
「あ、余計なことを言ったかな……。まあいいや、じゃあ次回は質問や疑問にお答えしましょ
「じゃあ次回も宜しくお願いいします」

奇しくも、もう1回続くことになった「モデラーのための色彩学」まだまだご質問を受け付けております。ご質問はメールフォームよりお送り下さい。それでは次回もお楽しみに。

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