編集部(以下 編)「師匠! この『モデラーのための色彩学』大好評ですよ!! こんなに反応が来てます」
線香亭無暗(以下 無)「ありゃぁ、みんな塗装についてはいろいろ知りたいんだねぇ」
「じゃあこれを機に連載にしちゃいましょうか」
「その手には乗らない(笑)。これ以上ワタシにただで原稿か書かせようたって(キッパリ)。それに、そんなに書くことないもん。模型の塗装は基本さえ踏まえておけば、その後は自分で工夫するもんだよ」
「またすぐそうやってつれない事をいう……」
「ちょっと寄せられたメールを読むから先に進めといて」
「まいったなぁ。それじゃ師匠に成り代わり『モデラーのための色彩学 その2』スタートです!」



◆キャラクターモデルとスケールモデル、その彩色の違い

「前回は基本的に踏まえておいて欲しい色彩の理論と、作例で使ったスケールモデルの塗り方について話して頂きましたが」
「今回はキャラクターモデルについて実践的な話しをしよう、ってところで終わってたんだよね」
「はい、お願いします」
「じゃあ、まず最初にキャラクターモデルとスケールモデルの違いについて。大雑把に言うと、スケールモデルっていうのは絶対的に実物が存在する。まず“本物”があって、それを模型化したものだよね」
「そうですね」
「対してキャラクターモデルは実物、つまり“本物が無い”ってところが大きく違う。まあ、細かく言えば1/1ガンダムとかSFのプロップとか、実写物に登場する人物やモンスターなんかのフィギュアとかどうすんだっ、ていうところもあるんだけど、1/1ガンダムは連邦軍に所属していないし、USSエンタープライズ号が本当に宇宙を旅してるわけじゃない。半漁人はアマゾンにいないしね。だから基本的にキャラクターモデルには“実物”がないっていうのが基本だよね」
「そういうことになりますね」
「SFモデルだと撮影用のプロップが“正解”になったりするんだけど、アニメ作品なんかだと、いわゆる“正解”が無い訳だから、その辺りを自分で探さなくちゃならない。それがキャラクターモデルの面白さであり、難しいところでもある」
「アニメ作品に登場する物なんかだと、アニメの設定画の彩色っていうのを基本として捉える人が多いと思うんですが」
「そうだね。でもアニメの設定画はあくまで“アニメ用の彩色”であって、画面上で最も力を発揮するように考えられているのもだからね。模型に塗る色とは自ずと変わってきて然りだと思う。というか、それくらいの自由度が無きゃキャラクターモデル作る面白味がないんじゃない?」
「アニメ用の彩色と模型用とではどう違うんですか?」
「アニメに出てくるものというのは、極端にいうと全部“見立て”で出来上がってる。『こういう形にこういう色を付けたら、こういうものですよ』っていうお約束みたいなもんだ。だから、それぞれのキャラクターカラーを前面に押出した形で彩色する。もっと考えれば、画面の中に登場するロボットなどは極端なアップや、複数のキャラクターが絡んだときなど、どんなアングルでもはっきりと“どれ”とわかるような彩色をする必要があるんだね。対して模型はどうかって考えると、まず圧倒的に単体で、しかも全体の印象で捉えていることが多い。あとは圧倒的に立体物とそうでないもの、という差はあると思う。二次元で描かれたものの彩色は、結構とんでもなくても違和感がないんだけど、立体物の彩色はそれよりも圧倒的にシビアで、違和感があるとより大きく感じてしまうことが多い。これ、確証があるわけじゃないんだけど、人間の本能的な部分に根ざしてるような気がする。二次元のものは自分を襲ってくることはまずないけど、立体に見えるものは襲ってくることがあるから注意しろ! みたいな。だから本能的に立体物に対しては必要以上に注意力を注いじゃうんじゃないかな?」
「なるほど、なんだか説得力ありますね。でも、アニメは見立てっていうのは面白いですね」
「実は日本人はこの“見立て”がすごく上手いんだよ。世界中で“風”を絵にかけるのは日本人くらいでしょ。ジャパニメーションが優れているといわれるのは、この能力せいもあると思うんだよね」



◆キャラクターモデルを塗装する2つの方法

「じゃあ次に、キャラクターモデルにどんな色を塗るかを、どうやって決めればいいのかという話なんですけれども」
「その前に、最初に考えるのは“どんな仕上がりが目標なのか”ってこと。アニメに登場するキャラクターをそのまんま再現したいのか、そこからイメージした自分なりのキャラクターを再現したいのか。これによって塗る色が大きく変わってくる」
「それはオリジナルカラーに塗った“オレモデル”みたいな話ですか?」
「いや、そういうことじゃなくてね。言い換えれば『アニメそのままを再現した模型』として仕上げたいのか、『もしこれが本当にあったらこうだよね』っていうふうに仕上げたいのか、とでも言えばいいかな。“オレモデル”はもっと先の話。もっとも、両方の中間的な仕上げっていうのもあるだろうし、部分的にどちらかを採用するってこともある。あ、こんな事言ってると、またわかんなくなっちゃう人がいるかも」
「そうですね。じゃあ極端に言って『アニメそのままを再現した模型』と『もしこれが本当にあったらこうだよね』っていう2種類に分けて話していただきましょうか」
「そうだね。じゃあまず『アニメそのままを再現した模型』に仕上げたい場合。これはアニメだけじゃなくてゲームのキャラクターなんかも同じと考えてもらいたいんだけど、基本的な色の組み合わせはアニメの設定でいい。余計な事をすると、かえってキャラクターカラーから外れてしまって、失敗するなんてこともある」
「やっぱりキャラクターカラーは重要だと」
「キャラクターモデルはその辺りがキモになる。これは『もしこれが本当にあったらこうだよね』って場合も手がかりになるんだけど。例えば次の図」

「ロボですね」
「うん。名付けて“無版権ロボ1号”(笑)。これ、このままだと何のキャラクターか判然としないでしょ」
「なんとなく連邦軍っぽいですけど」
「じゃあこんなカラーリングにしたらどうだい」

「あ、全然印象違いますね」
「でもまだ、何者なのか判然としない。じゃあこれは」

「完全に連邦軍です」
「じゃあこれ」

「あ、敵の新型って感じ」
「ね、キャラクターそれぞれのイメージカラーって重要なんだよ。それぞれの色相と各色の面積比。大凡のところでそれを守らないと、そのキャラクターに見えない」
「なるほど。じゃあ実際にどんな塗料を使えばいいんでしょう?」
「ガンプラなんかだと専用のカラーが出てるから、それを塗れば基本的にOKだと思うよ。慣れてきて、そういった色に満足できなくなってきたら、そういうカラーをベースにちょこっと明度だけを変えるとか、そんなふうに楽しめばいいと思う」



◆知っていると得をする混色の法則

「ガンプラ以外はどうしましょう。専用カラーが出ていない場合は混色という事になりますが」
「説明書の塗装指定に従って混色すればいいんだけど、混色にはちょっとしたコツがあってね。法則みたいなものがある。混色する時って順番に塗料を混ぜていくでしょ。いっぺんに数色入れて混ぜる人はいないと思うんだけど(笑)」
「いっぺんに混ぜたら必ず失敗する気がしますね(笑)」
「そういう場合は、まず明るい色、『明度の高い色』から順に入れていく。色の中でもっとも明度が高いのは白だから、『白少々』なんて指定でも最初に白を塗料皿に入れる」
「あれ、いきなりビンなんかに作っちゃいけませんか? 良くハウツー本に紙コップで調色するなんて書いてありますけど」
「でっかい容器で調色すると、大量に塗料を混ぜちゃうことが多いんだよ。失敗するとダメージがでかいでしょ。塗料の無駄だし。自分の場合は万年皿に少量の塗料を作って、それでOKという事になってから必要な量を作ることにしてる。必ず調色が成功するとは限らないし、何色も作ってテストしたりすることもあるからね。万年皿は底が浅いから色も見やすいし、金属地だから塗料の透け具合も確認できる。そのまま取っておくと乾燥して色彩の見本にもなる」
「まあ、そうですけど。一度塗料皿に作った色と同じ色に作れますか?」
「うん。作ったばっかりの色ならほとんど再現できる。混色の順番も割合も覚えてるから。その辺も慣れだと思うけど」
「なるほど、調色って順番も大事なんですね」
「あ、そうだ。混色の順番の話だった。話を戻すと明度の高い色から混ぜるのは『明度の低い塗料の明度を上げるのは大変』だからなんだ。白っぽい塗料の明度を下げるのは簡単だけど、黒っぽい塗料の明度を上げるには大量の白を入れなくちゃならない。これは前回話した“混色による彩度の低下”と関わりが深いんだけど、まあ、ここでは法則として『混色は明るい色から』と覚えておけば間違いない。白、黄色なんかは必ず最初にする。それからこれは基本中の基本だけど、塗料はちょっとづつ足していくこと。いきなりドバッといくと必ず失敗する」
「わかりました」
「さっき『アニメそのままを再現した模型』として仕上げたい場合は専用カラーを使えばいいって言ったけど、できればそれも自分で調色すると面白い。調色には必ず個性が出る。それこそが“模型のオリジナリティ”に繋がると思うんだ。とにかく調色はやってみなくちゃ始まらないからね」
「そのとおりですねぇ」



◆キャラクターモデルのリアリティーって何だ?

「じゃあ次は『もしこれが本当にあったらこうだよね』っていう塗装がしたい場合の話をしよう」
「そうなると途端に手がかりがなくなってくるんですよね」
「うん、そうだね。まずキャラクターモデルだから、そのキャラクターに見えないとしょうがない。アニメやゲームなどに登場するキャラクターに沿ったものを作りたいなら、そのキャラクターカラーを参考に、“実際にそれが存在したらどんなふうに見えるか”を想像して調色する。これが『設定に沿ったリアリティー』というヤツだね。逆にそうじゃなくて、自分で作った設定に沿って自由に塗りたいなら、その自作のキャラクターをできる限り明確にしておく。これがいわゆる“オレモデル”という事。この辺を踏まえておかないと妙な“オレモデル”になる。設定に沿うんじゃなくて自分で設定も作るわけだから、もっと多くの作業が必要だってこと。まあ、どっちにしろ『その模型のスケールに沿った演出をしよう』っていうのが基本になるのは変わらないんだけどね」
「なるほど。だからさっき“オレモデルはもっと先の話”って言ってたんですね。でも、『アニメそのままを再現した模型』としての“オレモデル”っていうのもアリじゃないんですか?」
「もちろんアリだよ。もっとも“オレモデル”はアニメに出てこないから言葉としては矛盾してるけど(笑)。“アニメ調の仕上がりのオレモデル”はあってもいいんじゃない。ただ手順として『設定に沿ったリアリティー』と同じような手順はは必要になる。目的に沿って塗装を考えるっていうね。その結果がアニメ調っていうんなら全然アリだよね」
「なるほど。じゃあその『設定に沿ったリアリティー』について聞きたいんですけど、よく『現実に無い物にリアリティーを求めても無駄だ』的な意見があると思うんですが、それについてはどうですか?」
「いや、現実に無い物にだってリアリティーはあるよ。特にキャラクターモデルの色彩については、まだまだ追及の余地があると思う。確かに時代によって求められるリアリティーのレベルや嗜好が変わったり、質が求められたりするけど、無駄だなんてことはない。だったらCGを多用した大作映画なんか、みんな無駄だってことになっちゃうじゃないか。あれだって本物はないんだから。でもそういう映画を見て『すっげえリアル!』とか言う訳だから。その辺りは模型だって映画だって同じでしょ」
「まあ、そう言われればそうですねぇ」
「模型に関して言えば、見た時に『すげぇ! 本物みたい!』って言うのがリアリティーなんだと思うよ。その辺はすごくシンプル。今、キャラクターモデルがこれだけ隆盛している大元には、80年代のガンプラブームがあるんだけど、その根幹的な魅力は“リアリティー”だったと思うんだよ。それまでのキャラクターモデルには必ずゼンマイとかスプリングで発射するミサイルなんかが付いていて、プロポーションは二の次。トイバリューが前面に押し出された物が主だったのが、ガンプラではスケールを明確にしてバリエーション展開するとかね。『なんか本当にありそう!』っていう。もっとも最初の1/100ガンダムにはスプリングで玉を打ち出す武器が付いてたけど」
「その前はスケールって明示されてなかったんですか?」
「明示されてないっていうよりも、誰も気にしてなかった。組み立てるトイっていう認識だったからね。スケール違いで何種類か出てても『おっきい方とちっちゃい方』みたいな。同じラインナップ中でもスケールがいちいち違うとか。なんせ『宇宙戦艦ヤマト』だって最初はゼンマイ付いてたんだもん。そんな中で出てきたのが『HOW TO BUILD GANDUM』に代表されるガンプラ作例のリアリティーだった。もちろんガンダムっていう作品の持つクオリティーも高かったんだけどね。特に設定やストーリーなんかは当時の作品としては群を抜いていた。そう考えると、元の作品が提供したフィールドにモデラーたちが刺激され、その模型作品が発表されることで元の作品世界が拡張していったんだね。それが無ければ今のようなキャラクターモデルの隆盛があったかどうかわからない」
「やっぱり最初のガンプラ世代は言うことが違いますね(笑)」
「いや、その頃はもう中学生とか高校生くらいだったけど(笑)。なんせキャラクターモデルを設定色以外で塗るっていう感覚がなかったから、迷彩模様のザクとかサンドイエローのドムとかは衝撃的だった。ウェザリングとかチッピングとか、『えっガンプラにやっていいの?』みたいな(笑)。当時はそれだけで『キャラクターモデルのリアリティー』を感じることができた。塗装で模型がこれだけ変わるっていうのを劇的に見せ付けられた感じ。もちろん今の目で当時の作品を見れば大分厳しい所もあるんだけど、それでもエポックだった事に変わりはない。良く考えたら国産のキャラクターモデルに、真面目に色を塗るっていう観念さえ持ってなかったからね。まあ、そんな話はどうでもいいんだけど(笑)」
「じゃあ話を戻しましょうか(笑)」



◆調色の基本はイメージ固めから

「じゃあ、その『もしこれが本当にあったらこうだよね』っていう塗装のための、実践的な話をうかがいたいんですけど」
「うん、じゃあいつも自分がやっている方法を話そう。例えば模型に赤を塗りたかったとする
「はい」
「『もし『これが本当にあったらこうだよね』っていう仕上がりが欲しいんなら、まずは記憶の中にある“赤いもの”を思い出す
「例えばどんな」
「何でもいいんだよ。郵便ポストでも自動車でも消防車でも。で、それぞれがどんな色で、どんな質感かというのを確かめて、塗りたいものに最も近いイメージを探し出す
「実際に見に行くんですか?!」
「行くわけないだろ(笑)!  頭ん中でだよ。もしスペースシャトルとか思い出しちゃったらどうすんだよ。NASAかスミソニアンあたりまで行かなくちゃなんないじゃないか。でまぁ、そうやって思い出すとわかると思うんだけど、赤いものがイメージどおりの“赤”に見える状況って殆んどないんだよ」
「えー、消防車はいつ見ても赤いですけど」
「そうかい? 良く考えてごらんよ。例えば、その消防車に塗ってある赤い塗料そのままの色に見える部分は、実はほんの一部で、殆んどが明暗が付いた“違う色”に見えてるはずだよ」
「ああ、そうか。確かにそうかもしれません。イマイチ思い出せませんけど……」
「そんな時はしょうがないから消防車の写真を探したりする。この段階ではイメージだけつかめればOK。そうしたらイメージした色を元に、今度は消防車全体が見える状態を想像する。そうするとさっきの想像とちょっと違うイメージにならないか?」
「確かに。あの塗料のビンそのままの赤じゃないことはわかりました」
「そうしたら今度は塗装する模型の元、つまりそのキャラクターがどんな状況にいるかイメージする
「ええっ! どういうことですか??」
「例えば砂漠だとか市街地だとか宇宙だとか。北なのか南のほうなのか、それから季節によっても色の見え方って違うでしょ」
「それは難易度高すぎます。いくらなんでも無理です」
「あはは、そうか。じゃあせめてどこで使われるのか、どんな天気で使われる状態を作りたいのか位は考えておこうよ。そうすると色味が決めやすくなるから。じゃあとりあえず市街地で、夏場のカンカン照りの昼間の消防車をイメージしてみよう」
「ああ、なるほど。そう考えるとイメージがしやすいですね」
「でしょ。これを『脳内彩色イメージ』という。――と今決めた(笑)」
「なんだ、今決めたんですか! もっと実りのある話かと思ったじゃないですか!!」
「いや、この脳内イメージが大事なんだよ。それがしっかり決まっていないと調色の基準がしっかりできない」
「見本の写真から決めたりしちゃいけないんですか?」
「いや、その色で満足だったらそれでもかまわないと思うよ。ただ脳内彩色イメージのほうが自由度が高くて、いろんな色を想像しやすい。それと、写真に写ってるから正解だっていう固定観念が怖い。違和感があるのにそのまま進んじゃう理由になったりする」
「なるほど。だから写真を基本にしてもイメージはしっかり作っておくってことですね」
「そう、イメージが曖昧だと必ず調色で迷うことになる。で、イメージがしっかり固まったら、次は実際の塗料と比べて、どの色が一番近いかを考える
「それもイメージの中で?」
「いや、それは実際の塗料を見てもいいし、見本を見て決めてもいい。人が塗った模型のレシピが出てればそれを参考にしたりしてもいい。もし、自分の頭の中にある塗料の色が思い浮かんだら、その塗料をひっぱり出してきてよく見てみる。実は自分の場合、そのパターンが一番多いんだけどね。で、そうやって混色の基本となる塗料を決める。もちろん混色しないでもバッチリだっていう塗料があれば、それに越したことはない」
「師匠が混色しないで使う塗料ってあるんですか? なんか必ず混ぜてるような気がするけど」
「あるよ。代表格なのがガイアノーツのインテリアカラー。キャラクターモデルの白は、これをそのまま使うことも多い。それから同じくガイアの鉄道模型カラーのローズピンクは、コア・ファイターを塗る時に殆んどそのまま使った。この時なんかはローズピンクを基本にして全体の色味を決めたといっていい」

「へえ、そんなことがあるんですか」
「ガンダム系のトリコロールって、青を基準にしていることが多いように思うんだけど、実際に難しいのは赤なんだよ。青系の塗料って種類が少ないからバリエーションが限られるんだけど、赤ならそれほどシビアじゃなくバリエーションの幅が取れる。だから赤を基準に塗ってみようと思ったんだ。もちろんローズピンクの色味がイメージとドンピシャだったっていうのもあるんだけど」
「そういうこともあるんですねぇ。でもイメージを確定させるのって大変ですね。師匠は模型作る度にこんなことをやってるんですか?」
「まあ、大体ね。今は君に説明するために手順を追って、順番に話したから面倒に感じるかもしれないけど、実際は塗料の照らし合わせ位までは一瞬だよ。『あ、この模型はこれ』みたいな。多分みんなもそうなんじゃないかな。そのためのサンプルを、頭の中にたくさん用意しておくためにも、こないだの“日常の中の色の観察”とか、人の作った模型を生で見る機会を増やすっていうのが大事なんだと思う」
「作業前の、そういう準備が物を言うんですねぇ」
模型は手を動かしてる間だけが制作じゃないし、模型に関する情報だけが必要なんじゃないってことだね。そのあたりはキットの箱の中には入ってない。想像力を働かして、どんな仕上げにしようか考えるのはすごく楽しいことなんだけどね。どうも最近、そういう楽しみを十分に味わってる人が少なくなってるような気がする。初めてプラモデルを作り始めた頃は、そういうことが楽しくてしょうがなかったはず。技術はないから思い通りの仕上がりにはならなかったけど『どうにか思い通りの模型を作りたい』っていう欲求は今よりもずっと強かった気がする。その繰り返しで今日まで来ちゃったんだよね。きっと」
「ああ、そうですね。自分もそうなってるかもしれない。でも、せっかく作るんなら模型の楽しみを十二分に味わいたいですもんね」
「そうやってキットの箱にはいってない部分を構築していくと、模型だけじゃなく『物を作る』っていう事全般に対して対応力ができてくる。これは経験的に言うんだけどね。そういう意味では模型ってすごく良いエクセサイズでもあるんだよ。想像力、忍耐力、整理能力、プレゼンテーション能力。みんな模型作りに必要な要素だから」
「ううむ、高尚な話になってきましたね……」



◆彩度は高いほうがいい? 塗料の質感って何?

「で、話を戻すと、最初にイメージに近い塗料を探すのには意味がある
「あ、珍しく自分で方向を修正した。で、どんな意味があるんです」
「この間の話で『減法混色はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック=CMYKで色を作る』っていう話をしたよね。じゃあ、なぜ全部の塗料を4色で調色しないのか?
「う~ん……、面倒くさいから?」
「アハハ、それもある。でももっと重要なのは、それぞれの塗料独特の『顔料の発色』というものがあるからなんだ。模型用塗料というのは全部CMYKで作られているわけじゃなくて、その色の元になる顔料と溶剤、安定剤で作られている。大昔はこの顔料を自然物の中から――鉱物や土、植物、動物資源なんかから採っていたんだけど、最近では殆んど化学合成された物質から生成されている。この顔料と同じ色をCMYKで再現しようとすると、必ず元の色より彩度が下がってしまうんだよ」
この間のお話では『元の色に白や黒を混ぜると彩度が下がる』っていうことでしたけど」
「この間は話をわかりやすくするために、あえて白と黒を混ぜると、ってことを話したんだけどね。実は減法混色ではどんな塗料を混ぜ合わせても、必ず彩度は少しずつ下がっていく。無彩色を混ぜた時ほどではないけどね」
「無彩色ってなんです?」
「無彩色って言うのは白からグレーになって黒に至るまでの色で、彩度を持たないという特徴を持つ色のこと。いわゆる白、黒とニュートラルグレーっていうヤツ。明度だけで識別されて、彩度は0、色相はどこを見ても同じ、という定義になる」
「うぉ、急に難しくなった」
「まあそんなことはただの論理。覚えておきたいのは明度と彩度に及ぼす影響が一番大きいのは無彩色だってこと」
「へえ、自分は持ってないのに、他の色と混ぜると明度と彩度に大きな影響を与えるってどういうことなんでしょう?」
「それを説明するのに、大分面倒な色彩学上の話しをしなきゃいけないんだけど、聞く?」
「あ、いいです。もう十分です。続けてください」
「じゃあ話を戻すと、顔料と同じ色をCMYKで再現すると自ずと彩度は下がる。だって全部の色を混ぜると最終的には黒に近くなるんだから
「それはわかります」
「じゃあもう理解できると思うんだけど、減法混色では混色で一度落ちた塗料の彩度を上げることはできないんだよ。だから元になる顔料をなるべく活かして混色を最小限止めることで、高い彩度を維持することができる」
「そうですね」
「だから塗料メーカーはいろんな顔料を使っていろんな塗料を作る。もしその色ぴったりの顔料がなくても、なるべく混色が少なくなるような方法を取っている。それから混色を進めていくと、その顔料独特の質感が損なわれていく」
「顔料そのものの質感って“発色”っていうのと違うんですか?」
「“発色”っていうのは別に色彩学上の言葉ではなくて、一般用語として“色が良く出てますね”っていうような場合に使われる言葉。顔料の質感っていうのは……うーん、感覚的なところなんで説明しづらいんだけど、“その塗料ならではの触感が想像できるような感じ”ってことかな。例えばアルティメットホワイトとかさ、“絶対的な白です”って表情がある。さっき言ったインテリアカラーなんていうのは顔料同士の相性がいいんだと思うんだけど、手触りを感じさせるようなソフトな白に仕上がってる。『何々を再現している』っていうのとは違う、色彩学に収まらない感触、とでも言ったらいいかな。そういった質感も混色によって失われていくんだよね。だから塗料メーカーはなるべく混色を少なくして、質感を保ったまま、より彩度の高い状態でリリースしようとする」
「なるほど。そうだったんですね」
「まあ、質感の話しは置いといて、彩度について言うと、これが非常に面倒なことを引き起こすことがある」
「へ、色って彩度が高いほうがいいんじゃないんですか? だってメーカーがわざわざ彩度が高いまんま提供してくれてるんですから」
「実はそれが勘違いなんだ。メーカー側が最も彩度の高い状態で塗料を提供しようとするのは、混色で彩度は上げられないからだと考えたほうがいい。でも、実際にこの世にある物は、それほど高い彩度で見えてない
「え、そうなんですか?」
「ホラ、さっきの消防車の話を思い出してごらんよ。実際に塗装色で見えてる部分はほんのわずかだろ」
「あ、そうだった」
「だから“キャラクターモデルをリアルに見せる”ためには必要なだけ彩度を落としてやる必要がある
「だったら最初から彩度の低い塗料を出してくれればいいのに」
「なにを言ってんだい。さっきイメージカラーを確定するのに、一体どれだけの要素が必要だった? そんなふうに、あらゆる状況に対応する塗料を全部出してたら、ラインナップが何万色にもなっちゃうじゃないか」
「あー、そうでした……」
「まあ、大体32,000色ぐらいあれば、どれかはイメージに合う色があると思うけどね。人間が認識できるのは大体それぐらいの色数だといわれてるから。でも本当にそうなったら選択に一苦労だよ。3日くらい分厚い色見本とにらめっこして、模型屋さんで丸一日悩むことになる。だったら自分で調色したほうがいい(笑)」
「その方が精神的にも良さそうですね(笑)。それじゃあ今回はこの辺で〆て、残りは次回にしましょうか」
「はいはい、じゃまた後日」

『MPJ技の泉 モデラーのための色彩学 その2』お楽しみいただけたでしょうか。ご意見、ご感想などもお待ちしております。下記のコメント欄かメールフォームよりお寄せ下さい。それでは次回もお楽しみに。

<『モデラーための色彩学 その1』へ『モデラーのための色彩学 その3』へ>


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