編集部(以下 編)「師匠、今回はこんなごメールを頂きましたよ」
線香亭無暗(以下 無)「なんか、今回は矢継ぎ早に『技の泉』やるんだねぇ」
「いや、前回の記事が評判良かったもんで――って、それはどうでもいいんです! メールですよ。リクエストのメール!」
「どれどれ」
「これです。バリティーさんからのメールで『技の泉にて取り上げて頂きたいのが、「調色に関する色彩学」です。「~色に~色を少々」等の表記をよく見かけるのですが、その色にこの色を足す事によりどの様な効果を得られるのかや、そういったアイデアの根拠になる知識を是非記事として拝読してみたいです。又、“アルティメットホワイト本当の有用性とは”にて掲載されていた様な視覚のトリックの有効活用法についても見てみたいです』ということなんですが」
「あ、面白いね。それ、いつかはやらなくちゃと思ってたんだけど、いい機会だからちょっとやってみようか」
「じゃぁお願いします」
「それじゃあ、『モデラーのための色彩学』ってことでやってみましょ」

 

◆まずは基本中の基本から

「“色彩学”って言っても、そんなにシチ面倒くさいことはやらないつもりなんだけど、基本的に『これだけは覚えといてね』ってことがいくつかある」
「いきなりなんでお手柔らかにお願いします」
「はいはい。まず色の混ざり方について。大体3種の混色方法があるんだけど、ここで問題にするのは、そのうち2種類」
「なんか敷居が高そうですね」
「そういう固定観念がいかんのだよ! この間も言ったでしょ。ものの仕組みがわかれば対処法がわかるって」
「ハイハイ、わかりました。続けてください」
「ハイは1回!! で、続き。子供の時に習ったと思うんだけど、『光の三原色』と『色の三原色』って聞いたことないかい?」
「なんとなく記憶の隅にあるような、ないような……」

「『光の三原色』っていうのはレッド、グリーン、ブルーの3色。TVやPCのモニターなんかにも使われている“RGB”というやつだね。この混色のことを『加法混色』という。これは『足し算の混色』ということで、全部の色を目いっぱい足すと白になる」
「本当に白くなるんですか? 体感的にピンと来ませんけど」
「なるよ。面白いようになる。昔の舞台照明なんかでは、よく使ったと聞いたことがある。3台のライトにそれぞれの色のセロハンをかぶせておいて、役者さんの居る所だけ3色が重なるように照明を当てる、とかね」
「へぇ、色んな使い方があるもんなんですね」
「“色”だけにね。対してここからが重要。模型の塗装に使うのは『色の三原色』=『減法混色』というヤツだ」
「へぇ、こんどは『引き算の混色』ってことですか?」
「そのとおり。こっちは引き算なんで、色をどんどん混ぜていくと黒に近くなってくる。小学校のお絵かきの時間に、いろんな色を混ぜちゃって、得体の知れない黒っぽい茶色みたいな色を作っちゃう、あの感じだね」
「あれ? 『減法混色』は近くなるだけで、黒にはならないんですか?」
「そうなんだ。減法混色では“理論上黒になる”といわれているだけで、実際に“黒!”って感じの色にはならない。これは理論上の三原色に値する塗料がないからなんだけどね。なので減法混色では3原色のシアン、マゼンタ、イエローの他にブラックを加えて、4色でいろんな色を再現する」
「へぇ、面白いですねぇ。あれ、白と黒は?? 加法混色には黒が、減法混色には白がありませんよ」
「それは最初に言った『光の3原色』と『色の3原色』という言葉をみればわかる。光は何もない状態だと暗闇=黒。色は何も塗らない状態だと白、という前提になってるんだよ」
「ああ、なるほど。それを前提に3原色が混ざるとどうなるかって話なんですね。結構面白いや」
「でしょ。何でも掘り下げてみると面白い。そしてもうひとつ面白いのは、我々が目で見る色は全て“光の反射”として認識されているという事。元が減法混色だろうが何だろうが例外なくそうなる。だから光の無い真っ暗な状態では色が認識できないんだ。そして、その『加法混色』という混色特性を持った光の反射を、『減法混色』で再現しようとするのが塗装ということになる」
「なんだかニワトリとタマゴどっちが先か、みたいな話ですね」
「まあ、当たらずとも全然違うけど(笑)。複雑に考えすぎると頭痛がしてくるので、大凡の所を踏まえて次にまいりましょ」

◆『色の三属性」なんていうから難しくなっちゃうんじゃないの?

「で、今度は出来上がった、それぞれの色についてのお話」
「出来上がった色ってなんです?」
「例えれば、模型に塗ってある“ここのこの色”っていうのをどういうふうに捕らえるのかって事」
「そんなの見たまんまじゃないですか。“ここのこの色”なんでしょ」
「うん。じゃあ君はMPJの作例で塗った“ここのこの色”を見ただけで再現することができるかい?」
「う、それは無理です。簡単な色ならできるかもしれないですけど、師匠の塗装ってめんどくさい色で塗ってあるんですもん」
「めんどくさいとは失礼な。まあいいや。そういう“ここのこの色”を再現したい時に、その色がどんな要素で構成されているかがわかったら、手がかりになると思わないか?」
「ああ、それは思います。なんだか、漠然とやってると手がかりがないんですよね」
「そういう時に手がかりになるのが『色相』『明度』『彩度』っていう要素なんだ。色の三属性って言うんだけどね」
「う、また難しくなってきた」
「そうなんだよね。『色の三属性』っていうと途端に難しい話に思えてくる。でも全然難しくないよ。模型用の塗料を混ぜたことのある人なら体感的にわかる話。まず『色相』っていうのは赤とか青とか黄色とか、色の系統を表す言葉。単純に赤系とか青系とか言ってるうちはいいんだけど、『赤系の~』とか『青系の~』とかになってくると途端に難しくなるという、まあ、『混色のキモになる観念』とでも言ったほうがいいかな」
「なんとなくはわかります」
「じゃあ次は『明度』と『彩度』。簡単に言うと『明度』は色の明るさ、『彩度』は色の鮮やかさを表す言葉。基本的に『明度』が上がっても下がっても『彩度』は落ちる」
「ああ!! もうわかんない……」
「図で見るとわかるよ。下の図の真ん中、0部分が最も彩度の高い状態で、それに白と黒を足していくと思えばいい」

「ああ、こういうことならわかります」
「ここで覚えておいて欲しいのは『元の色に白を混ぜると明度は上がり彩度は落ちる。黒を混ぜると明度は下がり彩度は落ちる』ということ。白を混ぜても黒を混ぜても彩度は落ちるって事を覚えておいて欲しい。混色のコントロールをする上で重要な要素になるからね。これに『色相』の観念を加えていくと“ここのこの色”が分析しやすくなる」
「『色相』って、よく言う『マンセル色相環』って言うのとは違うんですか?」
「ううむ、そこへんが問題なんだよなぁ。『マンセル色相環』っていうのは、その昔、アメリカ人の画家でマンセルさんっていう人が『色と色との関係ってどうなってるんだろう』って考えて作った『色相』に関する色彩学上の観念のことで、特定の色そのものを表すものじゃないんだよ。それを誤解していると妙なことになる」

「こういうものですよね」
「うん、これを見るとそれぞれの色がどんな関係で成り立っているのかがよくわかる。隣同士にある色は『近似色』といって色相が近い色、円の反対側にある色は『補色』といって、最も色相の遠い色という事になる。この辺はマンセルさん、慧眼なんだけどね」
「見てると面白いですね」
「まあね。でも、これにしたがって塗装の配色を決めようとすると、大抵とんでもない目に遭うね」
「なんでですか?」
「これはあくまで『色彩学上の観念』だからだよ。例えば色相環上の60度にある色同士はマッチングがいいなんていわれているけど、そればっかりで構成すると薄らぼやけた配色になるし、補色同士は組み合わせに注意が必要だっていうけど、時代によって受け入れられる加減が違う。クリスマスカラーは思いっきり補色だしね。第一、色相環はマンセルだけじゃなく『オストワルト表色系』『PCCS 日本色研配色体系』など、色々とあるんだ。個人的に言うなら、マンセルの色相環は日本人には馴染みにくい所があると思う」
「なんだか難しい話になってきました」
「ああ、ゴメンゴメン。これ以上は面倒な話になっちゃうんで、この辺でまとめておくと、マンセル色相環は“へぇこんなもんなんだ”くらいに眺めておいて、あんまり気にするなってことかな。色に対する感覚を磨きたいなら、色相の勉強をするよりも、日常生活の中にある色をよく観察しておくことの方が100倍ぐらい大事だと思う」

◆“日常生活の色”は配色のお手本

「今、観察が大事って言ってましたけど、師匠、実際にはどんな風に観察するんですか」
「もう、ありとあらゆるものに対して『どんな色なんだ?』って思って見る。その辺を走ってる車の色と原チャリの色味の違いとか。同じような色味でもちょっと違うんだよね、素材が違うと。後は電車に乗ってても、窓から見える建築物とか止まってる電車の色とかよく見てる。『あ、ステンレスの車輌なのに窓枠のシルバーと質感が違う』とか。この間は晩飯のおかずの山芋の表面の黄色っぽい白の色味がいいなぁと思ってしばらく眺めてた。改めて考えると、我ながら危ない感じ(笑)。まあ、それを塗装で再現できてるかといわれると自信ないけど」
「そんなことずっとやってて疲れませんか(笑)?」
「いや、もう癖だね。それから自然物の配色にはハッとさせられる事が多い。今の時期だと物凄く強い日中光に照らされて、いつもは冴えないこげ茶色の木の幹が鮮やかな赤系のライトブラウンとダークブラウンに見えるとか、秋だと木になってる柿の実と葉っぱのグリーンとの対比とか。鈴虫とコオロギは似てるけど違う色、とか」
「なんかやけにネイチャーな人みたいですね(笑)」
「ホントだ。全然違うんだけどね(笑)。で、見てる時はあんまり考えないんだけど、いざどんな塗装にしようか模型を前にして考える時に『あ、あのときのコオロギの色!』とか、思い出すんだよ。」
「え、コオロギの色に塗った模型があるんですか!!」
「あるよ。もちろんそのままのコオロギ色じゃないけど。そんな時にどの塗料をベースにどれ位の明度で、どれ位の彩度でって考えることが多い。記憶と照らし合わせて調色する」
「どの作例がコオロギ色なんですか?」
「随分コオロギに食いつくなぁ(笑)。これの足の茶色い所」

「Zプラスにコオロギですか? 普通、考えつきませんよね(笑)」
「いや、なにもZプラスからコオロギを連想したわけじゃないよ(笑)。茶色ってことで考えているうちに記憶の中のコオロギの色が思い浮かんだだけ」
「人間の脳って恐ろしいですね。そういえばこの間のVF-11の作例の時に書いてましたけど、模型に実物と同じ色を塗るか、スケールエフェクトを考慮して塗るかっていう話なんですけど、師匠はどっち派なんですか?」
「別にどっち派ってこともないよ。ジャンルやスケールといった条件によっで使い分けてる」
「この間のお話では鉄道模型やカーモデルを作る場合は“実物の色”で塗ることが多いという事でしたけど」
「うん、鉄道模型だと実物の車輌の色で塗るっていうのが一般的みたいだけどね。カーモデルの場合はこの限りではない」
「実際にはどういうふうに?」
「MPJの作例でやった1/24のフェラーリがあったでしょ。あれはピンクの下地にガイアノーツの「跳ね馬スペシャルセット」の1番を塗ったんだけど、この塗料が正にイメージどおりの60’sフェラーリのロードカーの色だったんだよね。実車の修理に使えそうな色」

「今はもう販売してないみたいですね」
「たまにイベントなんかで売ってることもあるよ。まあそれはいいとして、作例でやったピンク下地っていうのは実車のフィニッシュでも使われる手法なんだ。だからこれ以上スケールが小さくなったら、ちょっと考えなくちゃならない。例えば1/43位で同じ手法を使うと、なんだか赤が暗くて”ボテッ”とした塊みたいに見えることがある」
「そういう時は上塗りの赤に手を加えるんですか?」
「いや、そのあたり赤っていうのは難しくてね。ちょっと明るくしようとするとピンクに見えたりする。だからそういうときにはピンクの下地は使わずに、黄色とか白とかの下地の上に同じ赤を吹く。赤ってそれ自体発色しにくい色なんで、下地の影響を受けやすい。それを利用したスケールエフェクトだともいえるね」
「なるほど、奥が深いですね」
「それも“記憶の中の250GTOの色”を基本にして塗ってる。実車の250GTOは近くで見たことないんだけど、丁度同じ年代の似たようなタイプの実車を間近に見たことがあってね。その記憶、というかイメージと照らし合わせて」
「写真なんかを参考にすることはないんですか?」
「写真はあんまり当てにならないことが多いからなぁ。撮影した状況で写り方が変わるからねぇ。でも写真しかないなら写真を参考にすることもあるよ。例えば作例でやったヴィルベルヴィントなんかはモノクロ写真を参考に塗った」

「モノクロ写真なんてどうやって参考にするんです!?」
「インストの塗装指定と当時の実車のモノクロ写真を見比べてみると、グリーンの部分があんまり目だってないような気がしたんだ。3色迷彩だからそれぞれの色の明度差は十分なはずなのに、グリーンだけがぼんやりしてる。モノクロの写真は明度差には敏感だからね。という事はグリーンが褪色してるんじゃないかと思ったんだ。当時の実際のグリーンの塗料は顔料に緑青を使っていることが多いんだけど、顔料の質が落ちると途端に褪色が激しくなる。終戦近くのドイツ軍だからあんまり質の高い塗料を使ってなかったんじゃないかと。この時の塗装にはガイアノーツの『ドイツ戦車3色迷彩セット』を使ったんだけど、グリーンには白を足して明度を上げた。という事は彩度も下がってるって事なんだけどね。そうやって褪色を表現したというわけ」
「なるほど、面白いですねぇ。じゃあ実物のないキャラクターモデルの場合はどうやって塗ってますか?」
「あのさ、水を差すようで悪いんだけど、ずいぶん長くなってないか?」
「あ、ホントだ。じゃあ1回〆て、次回はキャラクターモデルの事を中心に語ってもらいます」
「“もらいます”って、強制かよッ!!」
「そうです。イヤでも語ってもらいます(笑)」
「そういえばずいぶん観念的な話が多くなっちゃったからね。じゃあ次回はキャラクターモデルを中心に実践的な塗装の話をしよう」
「宜しくお願いします」

MPJ 技の泉『モデラーのための色彩学 その1』いかがだったでしょうか。次回は近日公開予定。楽しみにお待ち下さい。
『モデラーのための色彩学 その2』へ>


One Response to “MPJ 技の泉 モデラーのための色彩学 その1”

  • バリティー:

    早速記事拝聞させて頂きました!
    すごく面白いです!
    モノクロ写真を参考にする事や、白黒どちらを混ぜても彩度は下がる事、日常の中で見た色の再現方法を考える事。
    非常に勉強になります。

    写真を見るといい作品って本当に配色が上手なんだなぁと実感しますね。
    様々な組み合わせの色もよりその色がその場所にある事が当たり前かのように見事な一体感を出しています。

    次回の記事も楽しみにしています!

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