プロモデラーであり、音楽や広告等の制作も手がける線香亭無暗氏。当サイトの重要な理解者であり協力者でもある無暗氏の個人ブログであった「やたら模型制作部」が、新たにMODELER’S PRESS JAPAN内のコンテンツとして稼動することとなった。このインタビューでは氏の人となりを紹介させていただくと共に、『模型という趣味』という非常に興味深い課題について語っていただこうと思う。

編集部(以下 編)「まず無暗さんのペンネームについて伺いたいんですが、かなりユニークというか、変わったお名前ですよね」

線香亭無暗(以下 無)「そうですね(笑)。実は十数年前に広告の制作会社を辞めてフリーになったときに飯が食えませんで、エロ本とかの原稿も書いてまして。さすがに本名じゃ気恥ずかしいので『線香亭若殿』ってペンネームを使ってたんです。ちょっと灯ってはいつの間にか終わっている「線香」と、アンダーグラウンド的に潜水艦=潜航艇というのをかけて。元々落語好きなものでそういうのもいいかなぁと思いまして。『若殿』って言うのは当時よくお世話になっていた呑屋の大女将さんから「あら~若様いらっしゃい」なんて呼んでいただいてて、そこからつけました。でもずいぶん時間がたって自分も40代になって、さすがに『若殿』はないだろうと。『40にして迷わず』って言うくらいだから無暗に仕事をしてやろうかなと思って『無暗』に変えたんです。自分的に勝手に昇進したという感じですね」

編「モデラーとしてのキャリアはいつぐらいから?」

「ずいぶん昔、20代の始めのころに雑誌で一年くらいやってたんですが、それからは本業のグラフィック・デザインなどに集中しました。まあその後も延々と趣味で模型作りをやっていたわけですが、広告の撮影やPV等で使う造形物は結構作りましたね。大きいものから小さいものまで。『あ、それ俺作る』みたいな感じで。ディレクターなのにね(笑)。あんまり必要もないのにCFで使う部屋のインテリアに1/43のF1カーを大量に並べたりして。確かその年のF1カーをフルグリッドで作ったような気がする。あとはプロップなどを作る製作工房と知り合いだったもので、そこからの発注で博物館の展示物なども作ってました。飛行機とか船とかフルスクラッチで。まあ、そんなことをやっていたら、3年ぐらい前に雑誌のPCfanという所から話をいただきまして『ガンプラ・クロニクル』という連載を始めたのが、いわゆる『プロモデラー』復帰のきっかけです」

編「そうなるとプロモデラー暦はそんなに長くないことになりますね」

「そうですね。結構偉そうなことを書いてたりしますが、プロモデラーとしては新参者もいいところです」

編「その割にはというと失礼かもしれませんが、業界も含めた模型全般についてずいぶんと造詣が深いように見えますが」

「造詣が深いというのはどうかと思いますが、それはたぶん、ずっと業界の中にいなかったせいでしょうね。元々広告屋だというのもあるかもしれない。ごく一部の人を除いて、プロモデラーというのは金銭的にも非常に厳しい状況で生活しなければいけないんです。20代前半の自分が、もしずっとモデラーとして仕事をしていたら、どこかでドロップアウトしていたと思います。東京で一人暮らしをしていたらモデラーだけではたぶん結婚も出来ない。嫁さんが食わしてくれるんなら別ですが(笑)。後は広告屋としての本能で、今、自分が関わっている状況がどんなものかを考えてしまう癖があるんです。これは業界の中にいては意外と見えなくなりがちですから。そういう意味で新参者だったのが幸いしているのかもしれない、とは思います」

編「無暗さんは、そういった立脚点で『今の模型を取り巻く状況について違和感がある』と発言していらっしゃいますが、それは具体的にどのようなことなのでしょう」

「それは個人ブログの『やたら模型制作部』の最終回にも書いたんですけれど、模型という趣味はどうしても色んなものを「構築」してしまうものだと思うんです。もちろん作った模型は貯まっていくし、道具や塗料なんかも増えていく。それに、そういう物理的なことだけじゃなく『物を作る過程』でテクニックや精神力や処理能力なんかも培っていくものだと思うんです。もちろん人それぞれのアプローチの違いはあっていい。例えば『今回はゲートの切り方が上手になった』でもいいし、『塗装が上手くいった』でもいい。『今回のフルスクラッチはプロポーションが抜群だ』なんていうのはかなり上級者ですよね。みんなそれぞれ形は違っても『ちょっといいもの』が作りたいという動機があって模型を作っている。完成までのプロセスが適当なら完成後の満足感もそこそこだし、プロセスを追い詰めていけばより大きな満足感を得ることができる。それこそが模型作りの醍醐味のひとつで、乱暴な言い方をするならば完成したものはただの結果なんです。そうやって様々な有形無形のものを構築していくのが模型趣味の醍醐味だと思うんです。
でも最近の状況を見ていると多くの人がそういったプロセスを無視してしまっていると思うんです。そういう人を見ると「模型」を消費しているな、と感じることが多い。価値観が均一的というか、間口が狭いというか、フレキシブルに物事を見られない人が、そういう消費の傾向を示すことが多いと思います」

編「『模型の消費』というと、具体的に言うとどういうことを示すのでしょう」

「あんまり言うと差支えがありそうですが、『積んどくモデラー』なんていうのはその類でしょうね。自分のブログでも書いたんですが、ガンプラ集めが趣味なのに全く作らないという人がいるのを知っています。そんな話を聞くとやっぱりおかしいと思う。皆さん忙しいでしょうから、次から次に完成させるというのは無理があるのでしょうが、全く手をつける気もないというのは……。確かに自分の家にも積んである模型がありますが、家の場合はどちらかというと『在庫』って感じです。『出番待ち』みたいな感じで。これは自分だけかもしれませんが、キットを買ってしまうとどうしても作りたくなってしまう。『ああ、締め切りがあるのに関係ないキットの仮組みしてる自分って……』なんてことも多い。今でもアオシマのハヤブサが作りたくってどうしょもない(笑)。でも作る当てもないのに買っちゃうって言うのはなんだか違和感があると思いません?」

編「確かにそうかもしれませんね。我が家にも大量に詰まれたキットがあるのでおおっぴらには言えませんが(笑)。先ほどの『ユーザーの価値観が均一化している』というお話について、もう少し突っ込んで伺いたいのですが」

「そうですね。これも単に私が感じているだけなのかもしれませんが、模型に限らず『物を見る目』を養うにはある程度の指標が必要になると思うんです。自分達のころは模型店の店頭の完成品であったり、『HOW TO BUILD GANDUM』に代表されるストリームベースの作品であったり、田宮の『情景写真コンテスト』であったり、『センチネル』が指標になっていた。そういったものは模型の本義である『もし本物があったらこうだ』という事を再現しようとしていたと思います。ところが、ある一時期から模型がやけにキャラクター化してき始めた。それにつれて、これも名前を出すと差支えがあるのかもしれませんが「ガンプラ以外は興味がないから知らない」みたいな人がどんどん増え始めた。元々ガンプラの面白さは『元がない模型のリアリティ』にあったと思うんです。ガンプラに限らず、SF系の模型はプロップなどを除けば本物が無いわけですから、どこかからその『リアリティ』を借りてくるしかない。AFVや航空機のディテールや巨大な建設機械や建築物などから、いろんな物を借りてきて模型に反映させていた。それが『もっと広い目で模型を見る』という事につながると思うんです。そういう発想は模型だけじゃなく日常生活全般に役立つものです。そう考えると、目標とされるべきは「誰々さんの作例」ではなく、『実際にそれがあったらこんな風』というのが正解だと思う。私はキャラクター的な模型の作り方を否定しているつもりはないんです。『模型』は自由なものですから、キャラクターモデルとしてのアプローチがあってもいい。そういった仕上げが似合う模型もあるだろうし。でもそれ以外の選択肢がない、というのは問題だと思います」

編「それでは一般の模型ユーザーさんはどうやって模型作りを学べばいいんでしょう」

「実の所、模型というのは学ぶ物なんかじゃやなくて、色んな事を考えて作っているうちに自然とノウハウが身につくものだと思うんですが……。誰かに習っても出来るようになるわけではありませんからね。自分で身に着けていくしかないと思いますが……。そうですね、最初のうちは「誰々さんの作例」のコピーでもいい。自分だってそうでしたから。でもそれを繰り返していくうちにそれだけじゃ物足りなくなってくる。小学校低学年のときは素組みで完成すれば満足だったのが、高学年くらいになると組み立て説明書の写真と同じように作りたいと思い出して、これが中学生以上になるとだんだん自我が出てくるので「オレモデル」的なものを作りたくなってくるというのと同じです。本来はそういったプロセスを経ていく間に色々な価値観や手法を学んでいくんだと思うんです。まあ、今のプラモデルは非常に完成度が高いので、大人でも「素組みでいいや」って思う気持ちはわかるんですけどね。でも、例えば「オレモデル」を作る時の選択肢がひとつしかないという事には、やはり疑問を感じてしまう。「コピーです」って言うのはいいんだけど「オレモデルです」っていうコピーを見るとちょっと違うんじゃないかなとは思います。あと、最近よく思うのは、模型というのはあくまで『模型化』されたものであって、単なる『立体化』とは違うとは思います。

編「また興味深い発言が出ましたね。『模型化』と『立体化』の違いとはなんでしょう?」

「よく考えてみると『模型』というのはディフォルメの固まりなんです。現代の技術なら可能だと思うんですが、実物の自動車のCADデータを利用して全く同様のフォルムと機構を持った1/24の模型を作ったとします。それでもその車には似てないんですよ、たぶん。なんだか変な言い方ですが、非常に『模型』っぽく見えるはずです。たとえ部品一つ一つを正確に再現してあっても1/1と1/24では見え方が違う。人間の目と脳はそれほど単純に出来ていないんですね。これが1/8とかだと目が慣れていないので逆にだまされちゃったりする。そこが面白いんですね。スケールエフェクトというのは多分にそういう要素が含まれている。恐らく、模型に必要なのは『その車の模型である』という要素ではなくて『その車に見える』という事なんだと思います。言い換えれば前者は『立体化』、後者は『模型化』といえます。その『模型化』のために、あえて各部のバランスを変えたり、各パーツのバランスを変えたりする。それでようやく『その車に見える』ようになる。本当は嘘なんですけどね。そうしないと実物のイメージを再現できない。それが『模型』としての基本、メンタリティを考慮してこその『模型化』だと思うんです。ウェザリングなどもそういった『嘘つきのリアリティ』を演出する手法の一つであって、決して目的ではない訳で。そういう『嘘つきの手法』について言うと、ガンプラなどは元がない分自由度が大きいので余計にやりがいがあるはずなのに、いろんなところに出ているプロやアマチュアモデラーさんの作品などを見ると、妙に均一化されてしまっている感じがするんです。それはここ十年ぐらい、そういった模型作りのベーシックを振り返ってこなかったメディアにも大きな責任があると思います。これは自戒の念も込めてですが、自分も含めて、それこそきちんとした指標を示せていなかった。だからこそ、このサイトのようなところに存在価値があると思うんです」

編「そういっていただけるとありがたいと同時に身が縮む思いがします。それではそろそろページも尽きますので、当サイトに引越しをされた『やたら模型制作室』について一言いただいて、締めくくりとさせていただきたいのですが」

「そうですか。ここからが面白いのに(笑)。ええ~、皆様からご愛顧いただいてきた『線香亭無暗のやたら模型制作部』はMODELER’S PRESS JAPAN内にて『線香亭無暗のやたら模型制作室』と名前を変えてスタートいたします。前のブログでは火曜更新でしたが、次回からは金曜更新となります。どうぞ引き続きご愛顧のほどをお願いします」

編「近いうちにまたお話を伺えたらと思います。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

長時間のインタビューにもかかわらず精力的に話をしてくださった線香亭無暗氏の『やたら模型制作室』は、今週金曜、8月6日より連載開始の予定だ。楽しみにお待ちいただきたい。

2010年8月30日都内某所にて TEXT/編集部


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